アスベスト(石綿)とは、天然に存在する鉱物の一種です。非常に微細な繊維状で、耐熱性や耐久性が高く、摩擦に強いという優れた性質を持っています。そのため、20世紀には建築材料や工業製品に広く使われてきました。特に、屋根材、断熱材、ブレーキパッドなどに多く含まれていました。
アスベストには大きく分けて2つのグループがあります。一つは「クリソタイル」(白石綿)で、もう一つは「角閃石系」(青石綿や茶石綿など)です。角閃石系は特に危険性が高く、現在ではほぼ全ての国で使用が禁止されています。一方、クリソタイルは比較的危険性が低いとされることもありますが、国際がん研究機関(IARC)は全ての種類のアスベストを「発がん性がある」と分類しています。
アスベストが危険な理由は、その繊維が非常に細く、空気中に飛散するしやすい点にあります。人がこの繊維を吸入すると、肺の奥深くまで到達し、長い年月をかけて細胞に傷をつけます。主な病気としては、肺がん、中皮腫(胸膜や腹膜にできるがんで、ほとんどがアスベストが原因)、石綿肺(肺が硬くなる病気)などがあります。これらは深刻な健康被害を引き起こします。
特に深刻なのは、潜伏期間が非常に長いことです。アスベストを吸い込んでから病気が発症するまで、20年から40年、場合によっては50年以上かかることもあります。そのため、若い頃に作業で暴露した人が、高齢になってから重い病気と診断されるケースが多く見られます。一度吸い込んだ繊維は体内に残り続け、徐々に影響を与え続けるのです。
現在、多くの先進国ではアスベストの使用が全面的に禁止されています。日本でも2006年以降、原則として製造・使用が禁止されています。しかし、過去に建てられた建物にはまだ大量のアスベストが残っており、解体や改修の際に飛散する危険があります。適切な除去作業が行われないと、作業員や周辺住民が新たに暴露する恐れがあります。このため、許可制や免許制度による監視が重要だと考えられています。
一方、ベトナムなど一部の国では、クリソタイルを使った屋根材が今も生産・使用されています。「管理された使用」であれば安全だとする主張もありますが、国際的には全てのアスベストに発がん性があるとされており、予防の原則から禁止を求める声が強いです。建材に含まれるアスベストは、切ったり壊したりしない限り飛散しにくいとされますが、長年の劣化や災害時には危険性が高まります。代替材料の普及も重要な課題です。
アスベスト問題は、過去の産業活動が未来の健康への影響を大きく及ぼす典型例です。暴露してから発症までの時間が長いため、被害の全容が明らかになるのも遅れがちです。被害者団体は、より厳格な規制と安全管理を求めています。建物の解体が増えるこれからの時代、適切な管理と除去、そして代替材料の普及がますます重要になっています。