次の文章を読んで、後の問いに対する答えとして最もよいものを一つ選びなさい。
ところが今は違う。次の交差点を右、その次を左、と①指示は常に一手先までしか与えられない。運転そのものは驚くほど楽になったが、着いてみると、通ってきた道がどこをどう曲がっていたのか、まったく再現できないのである。目的地には確実に着く。しかし町は、いつまでたっても私の中で一枚の絵にならない。
これは記憶力の問題ではないと思う。地図を読むという行為は、自分の現在地を全体の中に置いてみる作業であり、そのつど「私は今ここにいる」と自分で決める作業でもあった。カーナビはその決定を代わりに引き受けてくれる。楽になったのは運転ではなく、②その決定の方だったのだ。
道具が仕事を肩代わりするとき、失われるのはたいてい、その仕事に付随していた別の何かである。